名古屋弁は敬語が柔らかい
名古屋弁には独特の柔らかさがあります。
「〜してみえる」「〜しとるで」といった言い回しは、命令的に響かず、自然と相手を立てるニュアンスを持っています。
名古屋に暮らすと、世代を超えて同じ言葉で会話できることに驚かされます。
言葉そのものに「敬語性」が組み込まれているため、人間関係を滑らかにする力を持っているのです。
プールで気づいた「スピード敬語」
私がこの特徴に気づいたのは40代の頃、室内プールに通っていたときでした。
冬場は暖気室に男女が集まり、自然に雑談が始まります。
そこで耳を澄ませていると、同じ名古屋弁を話しているのに、相手に顔を向けた瞬間、話すスピードが変わっていることに気づきました。
ゆっくり話すと敬語的に響き、早口ではフランクに聞こえる。
言葉自体は変わらないのに、スピードの違いで「上下関係」や「距離感」を微妙に調整していたのです。
ほとんどの人は無意識に行っており、自覚すらしていません。
しかし私はその場で「これこそ名古屋弁の最大の技術だ」と直感しました。
実務での応用
この気づきは、後の私の実務に大きく役立ちました。
交渉や折衝の場で、相手が「スピードで調整するタイプ」か「言葉で調整するタイプ」かを瞬時に見抜き、対応を変えられるようになったのです。
- 相手がスピード派 → 自分もスピードで合わせる
- 相手が言葉派 → 標準語の敬語をきちんと使う
この切り替えによって、場の空気を乱さずに交渉を進められるようになり、特に住民説明会では大きな効果を発揮しました。
難しい地域での住民説明会
しかし、現場ではさらに厳しい試練が待っていました。
ある地域で住民説明会を開いたときのことです。
三度ほど開催しましたが、相手側は私の「話法の何か」に気づいたのか、開催宣言の前に会合そのものを潰す戦法をとってきました。
言葉の技術を使う以前に、交渉の場そのものを壊されてしまったのです。
そのときはさすがに驚きました。
100回の個別訪問
もはや集団での対話は不可能と判断し、私は方針を切り替えました。
「個別住民説明」です。
一軒一軒、各戸を回り、住民の方々に直接説明を行いました。
気づけば100回近く戸別訪問をしていたと思います。
集団では拒否されても、個別に向き合えば、相手も耳を傾けざるを得ません。
時間はかかりましたが、誠意が伝わり、最終的には説得に成功しました。
言葉と行動の両輪
この経験から私は学びました。
言葉の技術は確かに強力ですが、それが通じない場面もある。
そのときに必要なのは、足を使って誠実に一人ひとりに向き合うことです。
行政書士の仕事でも、契約や申請書だけでは解決できないことがあります。
そんなとき、最も力を持つのは「粘り強く、誠実に説明し続ける姿勢」なのだと。
まとめ
名古屋弁の「スピード敬語」は、人間関係を調整する独自の文化であり、私は40代でその力に気づきました。
実務に応用し、多くの場面で成果を上げましたが、最も忘れられないのは、会合を潰され、100回の個別訪問に挑んだあの住民説明会です。
もし人生に「成功」という言葉をあてはめるなら、この発見と実践に尽きるでしょう。
言葉と行動、この両輪をもって、これからも行政書士として社会に向き合っていきたいと思います。
📌 TGS行政書士事務所
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